筆のこと
蒔絵筆とは漆器の絵柄や陶磁器の絵付けに使用する筆のことです。筆の種類は目的により様々です。
現在蒔絵筆に使用している毛は玉毛(猫毛)を用いています。時期的には11月〜3月頃の毛が良いとされています。しかも白毛もしくは茶毛の背の部分しか筆には適していません。
面相筆は狸毛を使用します。

蒔絵筆製造工程
下仕事 
1 毛あらい お湯を使って曲がっている玉毛をまっすぐにのばします。それと同時に玉毛に付いた汚れも落とします。
2 選別 毛先の状態及び長さや太さを見極めて筆の種類ごとに分けていきます。この工程は蒔絵筆を作っていくうえで、大変重要な作業です。
3 わた抜き 金櫛を使い綿毛を除去します。長さが同じ玉毛をあらかじめ揃えておいてそれを手で掴み、まず櫛目の粗い物を使います。その後もう一度、今度は櫛目の細かい物で綿毛を取り除きます。
4 毛もみ 綿毛を取り除いた玉毛をもみ灰(米のもみ殻を焼いて作った灰)を使って片手に乗る程度を持ち、両手を使い手の平の中で5〜6回もみ灰と一緒にこすり合わせます。この工程でしっかり玉毛の油分を取り除いておかないと漆や絵の具の含みが悪くなります。
5 毛揃え 下仕事の最後は毛もみによってばらばらになった玉毛をもう一度細かい金櫛を使い揃えなおします。揃った玉毛はきちんと先に寄せて細長く切った紙にしっかりと巻きます。この時も玉毛を曲げないように注意しています。

仕上げ 
1 さらえ 竹製のハンサシを用いて、毛先の無い玉毛や取り除かれていなかった綿毛をさらえ出します。この工程ですべての悪い玉毛は取り除かれます。またこの工程で筆の種類による筆先の調子も決めます。
2 芯たて 各種類ごとに専用の真鍮製の寄せ駒を使用します。その寄せ駒に玉毛を先から入れて下に敷いてあるガラス板を軽くたたき玉毛を先に寄せます。完全に寄せきっているかを確認後、麻糸で寄せ駒から出ている所を仮結びしておきます。
3 尾締め 麻糸を以前は使用していましたが、現在では上質な麻が入手困難な為に化学繊維を使用しています。前工程で仮結びをしてある所に合わせて三段に締めていきます。その後結び目から出た毛は小刀で切り落とします。
4 小軸軸通し 上小軸は直接穂先が入る所できつく入っていないと抜けてしまいます。そのため、各種類ごとに専用のキリを作り使用しています。蒔絵筆は使って頂いている人に合わせて穂先の長さが自由に調整できるつくりになっています。種類によってはこの後親軸に直接はめる物もありますが、もう一段中小軸にはめてから親軸にはめる物もあります。
5 親軸くせ直し 直接手で持つ所の軸を親軸と言います。購入時はまっすぐな物もありますが大半は曲がっているので、炭火であぶり一本ずつくせ直しをします。
6 軸入れ 専用キリで穂先が付いた小軸を入れていきます。ここでもしっかり親軸に入れておかないと小軸に付いた穂先がぐらついてしまいます。
7 仕上げ いよいよ最終工程です。もういちど筆先のチェックおよび造りの確認作業をします。そして水を穂先に含ませて仕上げます。